イベント

【開催報告】研究倫理ワークショップ第1回「進化はどこにいく:地球Bに生きる?」を開催しました

投稿日:2022/01/07
  • イベント

科学技術の進歩が劇的に加速する現代において、「倫理的である」とはどういうことなのでしょうか。研究者にとっての倫理の世界を紐解く新領域創成科学研究科「想像×科学×倫理」研究倫理ワークショップ。3回シリーズの第1回が、20211217日(金)にオンライン開催されました。

1回目のテーマは「進化はどこにいく:地球Bに生きる?」。ゲノム編集技術や合成生物学の発展により、進化の系統樹の外側で、人の手によって生み出された合成生物が地球の生態系の一部に組み込まれようとしています。これまでの系統樹が想定してきたオリジナルの地球を「地球A」とすると、いま私たちが住んでいるのはAとは別の「地球B」なのかもしれません。新領域の生命科学者のお二人、三谷啓志特命教授と松永幸大教授に、コーディネーター・福永真弓准教授が加わり、このテーマに挑みます。



テーマに挑む研究者

三谷啓志特命教授の専門は、メダカを使った放射線生物科学です。膨大な種を持つメダカの遺伝子を記録することで、生物多様性の成り立ちや、これからの行く末を研究。蓄積されたデータは一種の古文書のように活用できるのではないかと語ります。

松永幸大教授は合成生物学を専門とします。動物と植物を合成したplanimal(プラニマル)の創生など、これまでの生物種にとらわれない新しい発想で研究を進めています。これが実現されれば、光合成ができる皮膚を持つヒトが創生するなど、種の概念を変えるパラダイムシフトが起こりえます。

進化の現象そのものに長く向き合ってきた三谷特命教授と、これまでとは全く違う進化のプロセスを実現しようとする松永教授。一見、対照的な二人の対話は、福永准教授のファシリテーションにより進みました。



ー 「地球B」が見えてきた中での研究倫理 ー

「もともとの地球がAだとすると今はA´くらい。地球Bが近いのではないでしょうか。」と話すのは三谷特命教授。「地球Aでは、進化のルールの範囲内で遺伝子の多様性が生まれ、生き物たちの個性とつながりを生み出してきました。ゲノム科学はそのルールを解き明かそうとするとともに、さまざまな倫理的課題を生み出しています。しかし、合成生物学は今までのタイムスパンを無視できる一種のチートであり、これまで長い時間をかけてきた過程とは、次元が異なってきます。従来とは全く違った地球Bの生命ルールが混在するであろういまこそ、遺伝子の多様性について倫理を語ることが急務ではないか。」と指摘しました。

対して、松永教授は、「技術というものは、これまで生きてきた倫理観や経験にリンクして発展する一方で、それとは離れたところでどんどん進歩してしまう側面を持ちます。ですから、研究を進めていく上で、例えば予想外の生命が誕生するなど、自らの研究によって生み出される技術や発見が、地球の生態系や環境にまで影響を及ぼしうることを考える必要があります。しかし、実際にはそこまでの議論はなかなか進んでいません。」と現場の実情を説明しました。

★IMG_3p.JPG
左より:松永幸大教授、三谷啓志特命教授、福永真弓准教授

科学技術の多様かつ急速な発展と、それに伴って変化していく「研究倫理」。この問題は非常に複雑で、すでに一つの専門分野では収まらなくなっています。コーディネーターの福永准教授は「継続的な議論が必要であり、多彩な研究がなされている新領域は議論の場として最適です。今後もこういった議論を積極的にオープンにしていきたい」と締めくくりました。



ー 議論を可視化するグラフィックレコーディング ー

本ワークショップシリーズでは新しい試みとして、グラフィックカタリストの松本花澄氏と佐久間彩記氏による「グラフィックレコーディング」を実施しました。リアルタイムで議論がどんどん可視化されていくことにより、情報が整理され、よりスムーズな意見交換がなされていきました。カラフルなレコードのビジュアル効果は、登壇者と視聴者の視線を集め、自然に場の一体感が生まれていたように感じました。

★IMG_grarec.JPG
左より:佐久間彩記氏、松本花澄氏

完成版は研究倫理ワークショップウェブサイトにてご覧ください。
https://rinri.edu.k.u-tokyo.ac.jp/%E7%AC%AC1%E5%9B%9E



ー 次回のテーマは人間 ー

第2回目のテーマは、「人間はどこにいく:拡張する身体の現在と未来」です。人間の拡張を可能にする技術を研究するお二人と、実装前のリスクガバナンスについて思考する研究者が登壇します。「人間である」とはどういうことなのか、どこへ向かおうとしているのか。ぜひご参加ください。

2回「人間はどこにいく:拡張する身体の現在と未来」

登壇者:篠田裕之 教授(実世界情報システム・触覚インタラクション)
    割澤伸一 教授(人間環境情報学)
松尾真紀子 特任准教授(科学技術・リスクガバナンス)
コーディネーター:福永真弓 准教授(環倫理・環境社会学)

詳細、お申し込みはこちら

https://rinri.edu.k.u-tokyo.ac.jp/%E7%AC%AC2%E5%9B%9E

(取材・執筆:蘭真由子)

  • はてぶ
  • X
  • Facebook
  • LINE