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メダカで明らかにされた胚発生過程におけるアポトーシス=ゲノム損傷排除機構の劇的な変化

題目

メダカで明らかにされた胚発生過程におけるアポトーシス=ゲノム損傷排除機構の劇的な変化

 

発表者

保田 隆子(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任研究員)

三谷 啓志(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授)

尾田 正二(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 准教授)

 

研究概要

本研究では、マウスなどの哺乳類と比較して体全体が小さいため様々な組織を容易に観察することが可能な小型魚類モデル生物“メダカ”を利用して、細胞分裂が活発な胚期の極めて限られた時期にのみアポトーシスの機構が発動することを見出しました。さらに成魚に成長後も、生殖腺以外の組織ではアポトーシス機構の発動が抑制されたままでした。マウスなど哺乳類の成体では腸にアポトーシスが強く誘導されますので、メダカ成魚の腸では、ゲノム損傷の排除としてアポトーシスとは異なる放射線応答の戦略が存在する可能性が示唆されました。

 

研究内容

放射線被ばくにより細胞のDNAが損傷すると、傷害を受けた細胞が自ら“アポトーシス”という死を選択することにより自身を消去して生体組織を護る機構が発動します。本研究は、メダカの生殖腺(精巣)以外の組織においてはアポトーシスが胚発生の時期の中でも極めて限られた時期にのみ発動することを見出し、脊椎動物の初期胚の放射線感受性が胚の発生過程で劇的に変化することを明らかにしました。

本研究では脊椎動物のモデルとしてメダカを用いました。メダカ胚の脳が大きく発達する時期に放射線を被ばくすると、脳の奇形が誘発されてほぼ全ての胚が正常に発生できず死に至ります。一方、胚発生がさらに進行して脳の発達期を過ぎたメダカ胚では、同じ線量の放射線を被ばくしてもほぼ全ての胚が正常に発生しました。脳の発達期に被ばくしたメダカ胚では脳内に多くのアポトーシスが認められたのに対して、発達期を過ぎて被ばくしたメダカ胚では致死線量以上の放射線を被ばくした場合であってもアポトーシスはほとんど誘導されませんでした(図)。胚発生の進行に伴ってのアポトーシスの劇的な抑制は、脳以外にも細胞分裂が活発である咽頭上皮と腸上皮においても認められ、さらに成魚に成長した後も咽頭上皮、腸上皮をはじめ精巣以外の組織ではアポトーシスが発動しないことを見出しました。マウスなど哺乳類の腸では、放射線被ばくによりアポトーシスが誘導されますので、放射線被ばくによりアポトーシスが誘導されないメダカ成魚の腸では、アポトーシスとは異なる戦略で放射線障害に対応している可能性が示唆されました。

ヒトでは被ばくする胚発生の時期により放射線が胎児へ与える傷害の重篤度が大きく変化することが知られています。広島・長崎での原爆により母親の胎内で被ばくした子供たちの疫学調査から、胎児の脳が飛躍的に成長する発達期に放射線を被ばくすると小頭症などの重篤な悪影響が高頻度で現れるのに対して、発達期を過ぎて被ばくした場合には重篤な障害をもつ胎児が減少し、多くの胎児が障害をもたずに誕生することが明らかになっています。マウスにおいても胎仔への放射線影響を調べる大規模な研究によって同様な結果が得られています。本研究の成果から、脊椎動物では胚の発生において放射線によるアポトーシスが強く誘導される時期があり、この時期に放射線を被ばくすると胚発生が大きく乱されて奇形が多発すると考えられます。

メダカ咽頭上皮の組織に起こるアポトーシスの研究成果は、東京医科歯科大学、高野吉郎博士との共同研究により得られた成果です。研究成果は2018年8月3日、「PLOS ONE」誌に掲載されました。

 

 

 

<タイトル>
Radical change of apoptotic strategy following irradiation during later period of embryogenesis in medaka (Oryzias latipes)
<著者名>
保田隆子*、石川雄太、塩谷典子、伊藤加津沙、釜堀みゆき、永田健斗、高野吉郎、三谷啓志、尾田正二
<雑誌>
PLoS ONE
<DOI>
10.1371/journal.pone.0201790

 

問い合わせ先

東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻

特任研究員 保田 隆子(やすだ たかこ)

Tel: 04-7136-3663(動物生殖システム分野)

Email: t_yasuda@edu.k.u-tokyo.ac.jp