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長期宇宙環境飼育がメダカの遺伝子に及ぼす影響

1.発表者:

村田泰彦(東北大学大学院医学系研究科 助教)
保田隆子(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任研究員)
浅香智美(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任研究員)
尾田正二(東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授)
萬徳晃子(東京工業大学大学院生命理工学研究科 院生)
武山和弘(東京工業大学大学院生命理工学研究科 院生)
茶谷昌宏(東京工業大学大学院生命理工学研究科 助教)
工藤明(東京工業大学大学院生命理工学研究科 教授)
内田智子(一般財団法人日本宇宙フォーラム)
鈴木ひろみ(一般財団法人日本宇宙フォーラム)
谷垣文章(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)
白川正輝(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)
藤澤浩一(山口大学大学院医学系研究科)
浜本義彦(山口大学大学院医学系研究科)
寺井崇二(新潟大学大学院医歯学総合研究科 教授)
三谷啓志(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)

 

2.発表のポイント:

◆国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟で2ヶ月間飼育したメダカの遺伝子の発現について地上メダカとの違いを解析しました。
◆宇宙環境下で長期飼育したメダカで、地上のメダカに比べて大きく発現が変化する遺伝子が見つかりました。
◆水中に生活する魚でも宇宙船内の無重力環境では哺乳類と同様のストレス応答をしていることが分かりました。
◆これらの遺伝子変動がどのようにして発生するのかメダカをモデルとして用いて研究することによって、宇宙飛行士が長期間にわたって健康に宇宙滞在できる技術の実現につながると期待されます。

 

3.発表概要:

宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟においてメダカの幼魚を2ヶ月間飼育した後に軌道上から回収したメダカの6種類の臓器サンプルから、5,345遺伝子の働き方を地上メダカと比較解析しました。宇宙環境下で飼育したメダカでは、地上のメダカに比べて発現が大きく変化する遺伝子が複数見つかりました。眼や脳では宇宙飼育で発現が変化した遺伝子は少なかったのに対して、精巣・卵巣や腸では発現が変化する遺伝子が多数見つかるなど、臓器が異なると宇宙での遺伝子の働き方が大きく異なりました。一方、宇宙飼育メダカのどの臓器でも共通して変化する遺伝子が10個見つかりました。これらには免疫や酸化ストレスに関わるとされる遺伝子が多く含まれ、ヒトにおいてもストレスを受けた時に働く遺伝子であったことから、宇宙では水中の魚も哺乳類と同様のストレス応答をしていることが分かりました。今後、これらの遺伝子の発現変動がどのようにして発生するのかメダカを用いて研究することによって、宇宙飛行士が長期間にわたって健康に宇宙滞在できる技術の開発・実現につながると期待されます。

本研究成果は、2015年10月 1日に米科学雑誌「PLOS ONE」誌に掲載されました。

 

4.発表内容:

長期間の宇宙滞在は、宇宙飛行士の人体に様々な肉体的、精神的な健康障害を与えることが知られています。これらを克服することは月や火星への長期宇宙探査飛行にとって大きな課題です。宇宙での微小な重力、宇宙放射線、人工的な閉鎖環境などが健康障害の要因として考えられますが、それらを研究するためのモデルとなる生物が必要となります。1994年に4匹のメダカが15日間宇宙飼育されて、その間に正常に産卵し、宇宙で生まれた子供の発生が正常に進行することが確認されました。このメダカは、宇宙帰還後に多くの子孫を残しています。その後、メダカを使った実験はしばらく中断しましたが、その間にメダカの遺伝子研究が大きく進みヒトの遺伝子との一致点が次第に明らかにされたことから、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では小型魚類の宇宙実験のための装置や実験器具の開発を進めてきました。2012年に東京工業大学の工藤明教授のグループが実施したメダカ宇宙実験(Medaka Osteoclast)では、JAXAが開発した水棲生物実験装置を用いて、幼魚16匹を宇宙で飼育して宇宙環境下での骨代謝を研究する約2ヶ月間の実験が実施されました。

今回、この実験に用いられたメダカの6種類の臓器(脳、眼、肝臓、腸、精巣、卵巣)の遺伝子発現データを用いて、その遺伝子発現の変化が解析されました。これは、宇宙飼育中の魚を使って臓器間の遺伝子の発現の違いを大規模に比較した初めての研究です。すべての臓器に発現が確認された5,345遺伝子の発現量を地上飼育メダカと宇宙飼育メダカとで比較すると、それぞれの臓器によって異なる遺伝子がその発現を大きく変化させていました。宇宙飼育下では、成熟までの期間や生殖行動や繁殖には大きな影響は見られませんでしたが、腸と精巣・卵巣では遺伝子の発現が顕著に変化していました。一方、脳や眼では遺伝子の働き方の変化が少ないことが分かったほか、宇宙飼育により多くの臓器において共通して発現が変化する遺伝子が10個見つかりました。これらの遺伝子にはヒトにおいて免疫や酸化ストレスに関わることが報告されている遺伝子が複数含まれており、メダカとヒトが宇宙環境に適応する時のストレス応答の共通性が示唆されます。今回の実験は未成熟なメダカを宇宙環境で成長・成熟させた実験ですが、今後、宇宙環境で生まれたメダカを用いて同様の遺伝子解析研究や、さらにそれらが地上に帰還後にその子孫へなんらかの遺伝的影響が生じるのかを検証する実験も計画されています。メダカをモデルとして宇宙環境が生物にどのような生理的ストレスを与え、生物の体がいかに応答するのかが解明されることによって、宇宙飛行士が長期間にわたって健康に宇宙滞在できる技術の開発・実現につながると期待されます。

「PLOS ONE」10月1日掲載

論文タイトル: Histological and Transcriptomic Analysis of Adult Japanese Medaka Sampled Onboard the International Space Station

著者:村田泰彦、保田隆子、浅香智美、尾田正二、萬徳晃子、武山和弘、茶谷昌宏、工藤明、内田智子、鈴木ひろみ、谷垣文章、白川正輝、藤澤浩一、浜本義彦、寺井崇二、三谷啓志

DOI番号: 10.1371/journal.pone.0138799
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0138799

 

6.問い合わせ先

東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授
三谷 啓志(みたに ひろし)
Tel: 04-7136-3670(動物生殖システム分野)
Email: mitani@k.u-tokyo.ac.jp

 

新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
寺井 崇二 (てらい しゅうじ)
Tel: 025-227-2202
Email: terais@med.niigata-u.ac.jp

 

7. 用語解説

・「メダカと宇宙実験」

モデル生物であるメダカは、ヒトとの遺伝子の共通性が明らかにされてきました。受精卵や個体の観察が容易で世代交代が早く、狭い空間で多く飼育できることから、宇宙環境の生物(ヒト)への影響を研究するための優れた生物サンプルとして宇宙実験で利用されています。

 

■関連リンク

・メダカ宇宙実験(Medaka Osteoclast)JAXAホームページ
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/second/medakaosteoclast/

 

・水棲生物実験装置 JAXAホームページ
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/pm/mspr/aqh/

 

UTokyo Research 長期宇宙環境飼育がメダカの遺伝子に及ぼす影響