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電子液晶がもたらす不思議な金属状態を発見

      
 

概要

 京都大学大学院理学研究科 笠原成 助教、松田祐司 同教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科 芝内孝禎 教授の研究グループは、オランダ・ラドバウド大学ナイメーへン強磁場研究所のサルバトーレ・リカルデロ 大学院生、ナイジェル・ハッシー 同教授らと共同で、ある種の鉄系超伝導体において、液晶状態になろうとする「やわらかい電子」が、従来金属とは異なる不思議な金属(ストレンジメタル)状態を示すことを発見しました。このような金属状態は、これまで高温超伝導体などで発見され、磁気的な機構による異常な性質と考えられていましたが、磁気的な性質を持たず、電子集団がある一方向に揃おうとする液晶のような性質をもった物質において、ストレンジメタル状態が現れることが明らかになったのは今回が初めてです。このような電子液晶がもたらす不思議な金属状態は、高温超伝導など、物質の示す特異な電子状態を実現するための新たな指針を与えると考えられます。
 本研究成果は、2019年2月14日に国際学術誌「Nature」にオンライン掲載されます。

図1: 液晶化を示す「やわらかい電子集団」のイメージ図。セレン化鉄では、鉄原子の電子軌道が同じ方向に揃った電子液晶状態になろうとする。量子効果によって液晶状態になろうとする「やわらかい電子集団」は、通常の金属とは異なる不思議な金属(ストレンジメタル)状態を示すことが明らかになった。

1.背景
物質の状態には、気体、液体、固体のほかにも、液晶状態があることが知られています。これと同じように、固体内部に存在する多数の電子の集団も、様々な状態を実現し得ることが近年明らかになってきています。例えば、普通の金属を流れる伝導電子は一つ一つが自由に飛び回る「気体状態」にありますが、電子同士には電気的にクーロン相互作用による反発(電子相関)が働くため、多数の電子が集団的に運動するような物質では粘性を持った「液体状態」となります。さらに、電子同士の相関がより強くなると、もはや電子は動くことができずに結晶化をおこし「固体状態」にもなります。より最近の研究では、電子集団は、ある一方向へと揃おうとする液晶のような状態にもなることが、電子同士の相互作用が強いために従来の物理学が通用しないような物質群での研究から明らかになってきています。このような物質群には、銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体などがあり、特に、電子の液晶状態が、化学組成や圧力などの変化によって絶対零度まで完全に抑制された消失点(臨界点)の近傍では、電子集団は量子力学的な効果によって依然として一方向へと整列しようとする傾向をもった非常に「やわらかい電子状態」が実現します。そのような「やわらかい電子」がどのような金属的性質を示すのかを理解することは、新しい機構による超伝導など、物質が示す特異な電子状態を実現するための鍵になるではないかと考えられています。しかしながら、電子同士の相互作用が強い多くの物質では、液晶状態のほかにも、磁気的な秩序状態や超伝導など、多種多様な秩序が実現します。このため、純粋に「やわらかい電子」が示す金属状態がどのようなものであるのかは、これまで未解明となっていました。

 

2.研究手法・成果
今回、共同研究チームは、鉄系超伝導体の一種であるセレン化鉄(FeSe)に着目しました。この物質は、温度を冷やすことで鉄原子の電子軌道の方向が揃った液晶状態を示し、さらに低温に冷やすことで超伝導状態を示しますが、他の物質によく現れる磁気的な秩序を示さないのが特徴です。また、この物質では、セレン(Se)の一部を硫黄(S)で置き換えることで電子液晶状態が現れる温度を抑制することができ、特にセレンを16%程度硫黄で置き換えると、電子液晶状態が完全に消失したにも関わらず、量子効果によって液晶状態に強くなろうとしている「やわらかい電子状態」を実現することができます。(図1)今回、京都大学・東京大学のチームではセレン化鉄を幅広く硫黄置換したFeSe1-xSxの高品質純良単結晶を作製し、オランダ・ラドバウド大学との共同研究により、電気特性を詳細に測定することでその金属状態を調べました。一連の物質では、低温で電気抵抗がゼロになる超伝導が出現するため、電気特性を調べるためには超伝導状態を壊す必要があります。そこで共同研究チームでは、ラドバウド大学が有するナイメーヘン強磁場研究所において、強い磁場をかけることで超伝導状態を壊し、電気特性を極低温まで調べることを行いました。

 研究の結果、電子液晶状態の消失点の周辺で、通常金属とは異なる不思議な金属状態が現れることが明らかになりました。通常の金属では、電気抵抗は温度の二乗に比例して増加するのに対し、電子液晶状態の消失点周辺では、温度の一乗に比例した不思議な金属状態が出現します。さらに、その領域では、電子の有効的な重さが、増大していることが明らかになりました。(図2)このような不思議な金属状態は、これまで、高温超伝導体などで発見されており、ストレンジメタルとよばれ、高温超伝導を引き起こす鍵と考えられてきました。このストレンジメタルは、磁気的な秩序が消失する点(臨界点)との関連性が研究され、今まで磁気的な機構によるものが提案されていましたが、今回の研究成果は、量子効果によって液晶状態になろうとする「やわらかい電子集団」が不思議な金属状態を示すことを初めて観測したものです。今後、このような不思議な金属状態の性質を明らかにしていくことで、高温超伝導など、物質の示す特異な電子状態を実現するための新たな指針を与えると考えられます。

図2: 硫黄置換セレン化鉄(FeSe1-xSx)の電気伝導特性撤レン可撤つうたいいuchi4トポロジカル相」、ation,
rom x=ion,  extremely sensitive to air. nts.cisely the position of the ab-plane. . superconducti。セレンを16%程度硫黄で置換することで、電子液晶状態が消失する。この際、消失点近傍では、通常の金属状態とは異なり、電気抵抗が温度の一乗に比例して増大する振る舞いが現れる。また電子の有効的な重さを表すパラメータA*は増大を示す。これらは、量子効果によって液晶状態になろうとする「やわらかい電子集団」が不思議な金属状態を示すことを初めて観測したものになる。

 

3.研究プロジェクトについて
 本研究はJSPS科学研究費補助金(課題番号:15H02106, 15H03688, 15KK0160, 18H01177, 18H05227)、新学術領域研究「強相物質のトポロジカル相」の支援を受けました。

論文タイトルと著者

タイトル:Electrical resistivity across a nematic quantum critical point
著者:S. Licciardello, J. Buhot, J. Lu, J. Ayres, S. Kasahara, Y. Matsuda, T. Shibauchi, N. E. Hussey
掲載誌:Nature DOI:10.1038/s41586-019-0923-y