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メタゲノムとエピゲノムを融合した「メタエピゲノム」解析の提唱と実証 〜環境細菌叢が持つゲノム修飾機構の広大な未開拓領域の解明へ〜

 

発表者

平岡 聡史(研究当時:東京大学 大学院新領域創成科学研究科 博士後期課程/
     現:海洋研究開発機構(JAMSTEC) 特任研究員)
岡崎 友輔(研究当時:京都大学理学研究科 博士後期課程/
     現:日本学術振興会 特別研究員PD(産業技術総合研究所))
按田 瑞恵(東京大学 大学院理学系研究科 特別研究員/日本学術振興会 特別研究員PD)
豊田 敦(国立遺伝学研究所 特任教授)
中野 伸一(京都大学 生態学研究センター 教授)
岩崎 渉(東京大学大学院理学系研究科 准教授/東京大学大学院新領域創成科学研究科
    准教授/東京大学大気海洋研究所 准教授)

発表のポイント

◆新型のゲノム解析技術を用いることで、環境中の細菌叢(微生物集団)のエピゲノムを直接解明することを可能にする「メタエピゲノム解析」を提唱し、その有効性を実証しました。
◆琵琶湖に生息する淡水細菌叢の解析から、これまで知られていなかったDNAメチル化モチーフ配列を多数検出したほか、メチル化修飾反応を触媒する新規酵素を複数発見しました。
◆海洋、土壌、腸内などに広く存在する膨大な微生物のメタエピゲノム解析により、エピジェネティクスによって駆動される未知の機能や生態が解明されていくことが期待されます。

発表概要

 近年、細胞の癌化や分化を制御する機構としてエピジェネティクス(注1)が注目を集めており、哺乳類ではヒトやマウス等をモデルにエピゲノム解析(注2)が盛んに行われています。一方で、細菌・古細菌といった原核生物においてもこのエピジェネティクスという現象が起きていることが知られており、さまざまな分離培養株を用いた研究が古くから進められてきました。しかしながら、環境中の原核生物の大半は培養が難しく、原核生物の主なエピジェネティクス機構であるDNAメチル化修飾の実験的観測が困難なために、環境細菌叢におけるDNAメチル化修飾の普遍性や多様性は全く不明でした。本研究において、東京大学の平岡聡史大学院生(現:海洋研究開発機構 特任研究員)、按田瑞恵特別研究員、岩崎渉准教授と、京都大学、遺伝学研究所との共同研究チームは、第3世代シーケンサーと呼ばれる1分子DNAシーケンサーを活用することで、環境細菌叢のDNAメチル化修飾を観測する新たな手法「メタエピゲノム解析」を提唱し、その有効性を実証しました。本手法を用いて滋賀県の琵琶湖に生息する淡水細菌叢を解析したところ、多様なDNAメチル化モチーフ配列を検出することに成功し、さらに驚くべきことに、その約半数は新規のモチーフ配列であることが分かりました。加えて、バイオインフォマティクスによるDNAメチル化酵素遺伝子の予測と大腸菌を用いた遺伝子組み換え実験を行い、それらのモチーフ配列を特異的に認識する新規のDNAメチル化酵素を複数発見しました。原核生物は海洋、土壌、腸内など、地球上のあらゆる環境に存在しています。今後、メタゲノム解析(注3)に加えてメタエピゲノム解析を進めていくことで、原核生物のエピジェネティクスが駆動する生理・生態メカニズムの解明に繋がっていくことが期待されます。

発表内容

 ゲノム中の塩基のメチル基修飾(DNAメチル化修飾)に代表されるエピジェネティクスは、ヒトをはじめとする真核生物において遺伝子の発現制御や細胞分化等に深く関わっていると考えられており、例えば細胞の癌化やさまざまな疾患の発症、iPS細胞のような細胞のリプログラミングや再分化を制御するメカニズムの一つとして注目を集めています。一方で細菌や古細菌といった原核生物においても、このようなエピジェネティクスの存在が昔から知られてきました(図1)。原核生物のDNAメチル化修飾は、遺伝子転写制御やDNA修復、ファージ(細菌・古細菌に感染するウイルス)の感染に対する防衛機構(制限修飾系、注4)等の役割を担っていると考えられており、原核生物の生存や生態に重要な役割を果たしています。そのためこのような原核生物のDNAメチル化修飾は、ほぼすべての原核生物の系統において普遍的に起きていると考えられています。しかしながら、自然環境中の原核生物の大半は実験室での培養が難しく、DNAメチル化修飾の実験的観測は極めて困難でした。すなわち、これまでのDNAメチル化修飾の研究対象は分離培養可能な一部の原核生物に限られており、環境細菌叢におけるDNAメチル化の普遍性や多様性は全く不明でした。

 近年、DNAシーケンサーの技術発展は目覚ましく、より安価で大量のゲノムを読むことができる時代に突入しています。特に、いわゆる第3世代シーケンサーの登場と発展により、DNAメチル化修飾の検出や長いDNA配列(ロングリード)の取得が劇的に容易になってきています。私達は第3世代シーケンサーのひとつであるPacBio Sequelシステムを応用することで、環境細菌叢のDNAメチル化修飾を明らかにする「メタエピゲノム解析」が可能になるのではないかと着想しました。そこで本研究では、解析手法の確立と新規知見の発見を目指し、環境細菌叢をターゲットとした第3世代シーケンサーによるゲノムシーケンスとバイオインフォマティクス解析を行いました(図1)。
 

 

図1

(a)DNAメチル化修飾の例。この図ではm6A(6-メチルアデニン)を示している。(b)原核生物の持つDNAメチル化酵素の例。メチル化酵素が特定のDNA配列の並び(モチーフ配列)を認識し、その中の塩基に対して特異的にメチル基修飾を施す。(c)メタエピゲノム解析の概要。環境細菌のゲノムに施されているDNAメチル化修飾をシーケンス配列から検出し、ゲノム上のどの位置の塩基に対応しているのかを調べる。

 本研究では細菌叢サンプルとして、微生物生態学的に重要であり、かつ、本解析に適した対象として日本最大の湖である滋賀県の琵琶湖の淡水環境の細菌叢をターゲットとしました。表層5 mと深層65 mの水から原核生物の細胞をフィルターろ過により収集し、DNAを抽出し、PacBio Sequelによるゲノムシーケンスを行いました(図2)。その結果、97%以上の高い塩基配列決定精度(エラー率3%以下)をもつCircular Consensus Sequence(CCS)(注5)リードを約30万本取得できました。細菌叢解析を行ったところ、既存研究と整合的な結果が得られたことから、本解析手法の基礎的な信頼性が確かめられました。シーケンサーから得られた塩基配列情報を元に、原核生物が元々持っていたゲノム配列を再構築するバイオインフォマティクス解析を行ったところ、19の原核生物についてゲノム配列(ドラフトゲノム)を決定することができ、その多くは琵琶湖に多く存在する多様な未培養系統に属することがわかりました。
 

 

図2

サンプリング地点の地図と第3世代シーケンサーによるシーケンス解析までの流れの模式図。

 続いて、リード情報のバイオインフォマティクス解析をより詳細に行うことで、ドラフトゲノム上でどのようなDNAメチル化修飾が起きているのか調べたところ、実に22種類ものメチル化モチーフ配列(DNAメチル化酵素が認識する配列、図1)を検出することができ、そのうち少なくとも9配列に関しては今まで文献等で報告されたことがない新規のモチーフ配列であることが分かりました。このことは、未培養系統の優占する細菌叢には、まだまだ未知のDNAメチル化モチーフ配列が潜んでいることを示唆しています。さらに本研究では、ドラフトゲノムの解析によりDNAメチル化酵素(Methyltransferase; MTase)の遺伝子配列を複数推定しました。それぞれのモチーフ配列はどのDNAメチル化酵素によって特異的に認識されているのか、という「モチーフ配列―DNAメチル化酵素」の対応関係を丁寧に検証したところ、新規のモチーフ配列―DNAメチル化酵素の組み合わせが複数予想されました。そこで、これらのDNAメチル化酵素が本当に予測されたメチル化モチーフを認識するのか確かめるために、大腸菌を用いた遺伝子組み換え実験を行った結果、本研究の予想が正しいことが確認されました(図3)。私達はこれらの実験的に検証されたDNAメチル化酵素を新規酵素として命名し、認識するモチーフ配列とともに論文で報告しました。
 

 

図3

大腸菌を用いたメチル化酵素遺伝子実験の流れ(上)と結果(下)。大腸菌にDNAメチル化酵素を人工的に組み込み強制的に発現させることで、自身のゲノムにメチル化修飾を施させた。続いてプラスミド抽出を行い、制限酵素で処理した。この制限酵素は、認識するDNA配列にメチル化修飾が起こると、DNAを切断することができなくなる。その結果、DNAメチル化酵素遺伝子の非発現時(コントロール)は制限酵素による切断が起こる(バンドが下方に出現)のに対し、遺伝子の発現時(メチル化酵素発現時)は切断が起こらなくなる(バンドが上方に出現)、という明瞭なパターンの違いが実験的に観察された(下段a、b)。

 本研究では、第3世代シーケンサーを活用することで、自然環境中の細菌叢が持つDNAメチル化修飾の普遍性・多様性を世界に先駆けて検証しました。細菌叢を構成する原核生物のゲノムをまとめて明らかにする「メタゲノム解析」と、ゲノム上に後天的に起こるさまざまな変化をまとめて明らかにする「エピゲノム解析」の双方の特徴をあわせもっていることから、私達は本手法を「メタエピゲノム解析」(Metaepigenomics)と命名しました。本手法はさまざまな環境中の細菌叢にも適用することが可能であり、海洋、土壌、腸内といった環境サンプルに応用することで、多様な環境細菌叢のエピジェネティクスを観測することが可能になると考えられます。今後、既存のゲノム解析技術に併せてこの「メタエピゲノム解析」を活用し、複合的かつ大規模なデータに基づいた研究を進めていくことで、エピゲノムが環境細菌叢の生理・生態にどのような影響を及ぼしているのか、あるいはどのようなプロセスでエピゲノムは獲得され進化してきたのか、といった観点からの解析が進んでいくことが期待されます。

 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、リバネス研究費、及び京都大学生態学研究センターの共同利用・共同研究拠点の支援を受けて実施されました。また、本プレスリリース用の画像素材としてTogo Picture Gallery(DBCLS)を利用しました。

 

発表雑誌

雑誌名:Nature Communications(1月11日付オンライン版)
論文タイトル:Metaepigenomic analysis reveals the unexplored diversity of DNA methylation in an environmental prokaryotic community.
著者:Satoshi Hiraoka, Yusuke Okazaki, Mizue Anda, Atsushi Toyoda, Shin-ichi Nakano, and Wataru Iwasaki
DOI番号:10.1038/s41467-018-08103-y
要約URL:https://www.nature.com/articles/s41467-018-08103-y

用語解説

(注1)エピジェネティクス
DNAに対する後天的な化学修飾のこと。ゲノムの塩基配列自体には影響を与えないが、遺伝子の転写発現等の制御や制限修飾系に関わることが知られている。

(注2)エピゲノム解析
どのような種類のエピジェネティクスがどのようにゲノム中に分布しているのかを調べる解析手法。例えばヒトゲノムの解析から、DNAメチル化修飾が集積している領域や全く修飾が起きていない領域がゲノム上で混在していることが知られており、各領域での遺伝子の転写発現量の変化が疾患の発症等に結びつく例が多く報告されている。

(注3)メタゲノム解析
多様な原核生物種を含む細菌叢から直接DNAを抽出し、ゲノムシーケンシングと情報解析を行うことによって、分離培養を経ることなくゲノム解析を行う手法。

(注4)制限修飾系
原核生物のファージに対する防御機構の一つ。メチル化酵素によって細菌自身のゲノムをメチル化修飾すると同時に、制限酵素によって外部から侵入するファージDNAを切断し不活化する。「制限酵素はメチル化されたDNAを切断できない」という特性を利用している。

(注5)Circular Consensus Sequence(CCS)
PacBioシーケンサーのシーケンス手法のひとつ。PacBioシーケンサーは、一般的には1~20万塩基程度の長いDNA断片を用いてシーケンスを行うことが多いが、あえて短め(1〜4千塩基程度)の長さに揃えたDNA断片を用いる事により、同じDNA断片に由来する配列データを複数回取得(シーケンス)することができる特性を利用している。1回のシーケンスでは15%程度のランダムな塩基読み取りエラーが混入してしまうが、CCSでは同じDNA断片の配列情報を複数利用できるため、各塩基の位置で多数決の判定をすることでエラーを補正し、配列データ(リード)の精度を格段に高めることができる。