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表面・界面の構造解析ソフトウェアを開発 ―金属酸化物界面の原子配置を非破壊・非接触で高分解能に解析可能に―

        

 

発表のポイント

◆非破壊・非接触で0.02Å分解能の界面構造解析を、簡便に実現
◆これまで簡便なソフトウェアが無かったため表面/界面構造のデータ解析は非常に難しかったが、情報科学の活用で短時間に、半自動的に解析を実行可能に
◆新規酸化物デバイス開発への応用に期待

概要

 大阪大学大学院基礎工学研究科の若林裕助准教授らの研究グループは、東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡田 真人教授、同大学院総合文化研究科の中西(大野)義典助教と共同で、情報科学に基づく表面構造解析ソフトウェアを開発しました。これによって、物質の表面付近の原子配置を非破壊・非接触で0.02Åの高分解能で解析できるようになります(図1)
 結晶を形作る原子の並び方を知るためには、通常は結晶にX線を照射して、回折されたX線強度を測定する「X線結晶構造解析」が行われます。この手法は単結晶が繰り返し構造を持っていることを利用したデータ解析により実現されています。 これによって様々な新物質の構造が明らかにされ、多くの物質開発の基礎となりました。表面や界面は様々な特異な現象が生じますが、その場所での原子配置を通常のX線結晶構造解析の手法で得ることはできません。 これが界面構造の制御を難しくしています。界面の作製法を変えた時に、構造がどう変わったかを見る簡便な手段が無かったのです。
 大型加速器の利用により得られる放射光X線を利用することで、物質の表面や界面の構造を反映した情報が得られる「表面X線回折法」 ※1が知られています。この手法はX線結晶構造解析と同じ原理に基づきますが、これまでのところ、この手法を用いた表面X線構造解析はそれほど普及していません。 その理由は、X線結晶構造解析に用いられるような簡便な解析ソフトウェアが無かったためです。
 今回、若林准教授らの研究グループは、情報科学に基づく表面構造解析ソフトウェアを、様々な性質を示す遷移金属酸化物の界面を対象として開発しました。これによりデータの精度に由来する解析結果の信頼度を評価すること、及び安定した解析結果を得ることが可能になりました。 このソフトウェアを活用することで酸化物デバイスの実現に向けた素材開発の大幅な効率化が期待されます。
 本研究成果は、国際結晶学連合の論文誌「Journal of Applied Crystallography」12月号(オンライン出版10月23日(英国時間)を予定)に公開されます。

 

 

(図1)酸化物薄膜の構造モデル。基板(下側)の結晶構造は界面付近で多少変化し、薄膜(上側)では別の物質が繋がっている。微小な原子位置の変化を見ることで、表面や界面の局所的な性質が明らかになる。

研究の背景と研究内容

 遷移金属酸化物は、金属元素の組み合わせを変えることで、ほとんど同じ結晶構造を持ちつつ、 全く異なる性質を示す多くの物質を作ることができます。これらを原子スケールで接合させることで、 結晶構造の連続性を保ったまま、異なる性質を持った物質の間の界面を形成できます。 これを活用して、遷移金属酸化物を基盤としたデバイスが作れるのではないかと多くの研究が進められています。
そこで問題となるのが、作った界面の構造を調べる手法です。 非破壊・非接触で、高分解能な構造決定が原理的に可能な手法として、放射光を用いた表面X線回折法が古くから知られています。 しかし、表面や界面からの距離によって構造は変化するため、原子スケールでの構造を見るためには非常に多くのパラメタを決定する必要があり、 そこに大きな困難がありました。
若林准教授らの研究グループでは、結果の信頼度を正確に評価するために、情報科学で用いられるベイズ推定 ※2の考え方を取り入れました。 これにより、無数に考えられる原子配列(=構造)のうち、どの構造が実現している確率がどの程度であるかを評価できるようになりました。結果として、どの程度自信のある答えが得られているのか、 他に可能性のある答えはどんなものがあるのかが解るようになりました。
さらに、モンテカルロ法※3を用いて解析ソフトウェアを開発しており、その結果としてかなり安定して正解の構造を発見できるようになりました。そのため、従来非常に大きな労力を要していた表面/界面構造解析を、半自動的に実行できる可能性が開けました(図2)

 

(図2)開発したソフトの実行例。(上)図1赤丸で示された原子の変位量の深さ依存性。2nm厚のLaAlO3薄膜をSrTiO3基板に付けたAnswerの構造を仮定し、下パネル白丸の試験データを作った。Initialが初期値、Fittingが解析結果で得られた構造。(下)表面X線回折では白丸のようなデータが得られる。これを再現する構造モデルを探す解析を効率化した。ここでは正解を発見できることを示すために試験データに対する解析例を示したが、実際の測定データに対しても同様に解析できる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、従来は難しかった異種物質界面の構造制御が進展することが期待されます。解析の自由度が高いため、大型計算機を用いることでより複雑な構造にも適用できるように拡張可能で、新しい性質を示す界面の創成が加速すると期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際結晶学連合の論文誌「Journal of Applied Crystallography」12月号(オンライン出版10月23日(英国時間)を予定)に公開されました。
タイトル:“Bayesian inference of metal oxide ultrathinfilm structure based on crystal truncation rod measurements”
著者名:M.Anada, Y.Nakanishi-Ohno, M.Okada, T.Kimura and Y.Wakabayashi

なお、本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金:新学術領域研究-3D活性サイト科学、及び基盤研究(B)により助成を受けたものです。放射光実験は高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリーで行いました。

用語説明

(注1)表面X線回折法
X線結晶構造解析の原理を応用して、表面付近の構造を測定する手法。顕微鏡のように直接的に形状が観測できる手法ではないため、計算機による解析が必要な点もX線結晶構造解析と同じである。複雑な構造を解析するためには、非常に多くのパラメタを調整する必要がある。


(注2)ベイズ推定
ベイズの定理と呼ばれる確率に関する数学の定理に基づいて情報科学的にデータ解析を行う手法。単にデータ解析を行うだけでなく、その結果がどの程度信頼に値するかを確率の考え方を用いて評価することができる。また、実験データから算出される信頼度により複数の理論を比較検討することができる。


(注3)モンテカルロ法
乱数を用いてデータ解析などの数値計算を行う手法であり、情報科学の幅広い分野で用いられる。ランダムサンプリングを活用することにより、非常に多くのパラメタ調節を効率的に行うことができる。また、局所最適解と呼ばれる偽の解に捕らわれることなく安定して正解を見出すことができる。