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レアアース化合物における新奇な超伝導機構

  

 

発表者

竹中 崇了(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 博士課程1年)
水上 雄太(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 助教)
芝内 孝禎(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授)

発表のポイント

◆レアアース元素Ceをベースとした超伝導体において、その電子状態が明らかとなりつつあるが、超伝導発現機構は未解明であった。
◆不純物が超伝導電子に与える影響を30ミリケルビン(室温の約1万分の1の温度)の極低温まで詳細に調べた結果、磁気的な超伝導機構に特有の変化がないことが明らかになり、磁気的機構の可能性を完全に排除した。
◆電子間の相互作用が強い系で発現する超伝導の統一的理解に向けて、重要な手掛かりとなる。

発表概要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹中崇了大学院生、水上雄太助教、芝内孝禎教授らのグループは、京都大学、英ブリストル大学、仏エコール・ポリテクニーク、独マックスプランク研究所の研究者らと共同で、レアアース(希土類)元素Ce(セリウム)をベースとした超伝導体CeCu2Si2において、長年信じられてきた磁気的なゆらぎに基づく超伝導の機構では説明できない超伝導状態が実現していることを実験的に明らかにしました。
 磁気的なゆらぎは、高温超伝導をはじめとした電子間の相互作用が強い系(強相関電子系、注1)で起きる超伝導のメカニズムとして最有力候補となっています。超伝導体における電子状態の対称性は超伝導発現機構と密接な関連があり、強相関電子系で実現する超伝導の代表例である銅酸化物高温超伝導体はd波型の対称性であることが知られています。1979年に発見されたレアアース系超伝導体CeCu2Si2はこのような強相関電子系における超伝導のプロトタイプかつ典型例あり、銅酸化物高温超伝導体と同様にd波型の対称性の電子状態をとると思われていました。しかし、最近の研究ではs波型の対称性であることが明らかになり(※)、超伝導の発現機構について再び注目が集まっています。今回、試料中の不純物が超伝導電子の壊れやすさに与える影響を30ミリケルビン(室温の約1万分の1の温度)の極低温まで詳細に調べた結果、磁気的機構に特有な低エネルギー状態の変化が全く現れないことが明らかになりました。この結果から、磁気的なゆらぎによる超伝導は、CeCu2Si2の超伝導発現機構から完全に排除されることになります。
 本成果は、その発見以来長年に渡り議論が続いていたCeCu2Si2の超伝導発現機構に決定的な証拠を与える発見であり、電子同士の相互作用が強い系で発現する超伝導の統一的な理解に向けて重要な手掛かりとなることが期待されます。
 この研究成果は2017年8月14日の週付けで米国科学誌Physical Review Lettersにオンライン掲載される予定です。また、本成果はEditors’ Suggestionに選出されました。

(※)2017年6月26日プレスリリース
「38年を経て明らかになった 非従来型超伝導の「先駆け」物質の電子状態」
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry576/

 

 

発表内容

研究の背景と経緯
 ある種の物質を低温まで冷却すると、電気抵抗が突然ゼロになると同時に、外部から加えられた磁場が物質中に侵入できずに排斥される完全反磁性の特性を示すことがあり、この状態は超伝導状態として知られています。超伝導状態を説明する理論として代表的なものが1957年に発表されたBCS理論です(注2)。一方で近年、強相関電子系においても数多くの超伝導体が報告されていますが、これらの強相関電子系における超伝導状態はBCS理論のみでは全く説明出来ず、非従来型超伝導と呼ばれています。非従来型の超伝導を示す物質には、より室温に近い転移温度をもつ銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体などの高温超伝導体も存在することから、その発現機構の解明は現代の固体物理学における最重要課題の一つとなっています。
 レアアース元素であるCeをベースとした重い電子系超伝導体(注3)CeCu2Si2(Ce:セリウム、Cu:銅、Si:シリコン)は、1979年にドイツの研究者により約0.6ケルビン(約マイナス272度)で超伝導になることが報告された、非従来型超伝導の「先駆け」物質です。CeCu2Si2は銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体と多くの共通点を示すことから超伝導研究の鍵となる物質と考えられており、組成を変化させた際に磁気秩序相を生ずることから、磁気的なゆらぎを媒介とした超伝導機構が提唱されていました。超伝導の発現機構を解明するうえで有力な手がかりとなるものが超伝導電子の電子状態の対称性です。CeCu2Si2もその発見以来、電子状態の対称性について精力的な研究がなされており、磁気的機構を起源とした超伝導で期待されるd波型の対称性が実現しているとの見解が一般的でした。しかし高品質の試料を用いた最近の研究では、実はs波型の対称性であることが明らかにされています。
 ここで、重い電子系においては複数の電子軌道が物性に寄与しており、運動量が大きく異なる電子の集団が複数存在します。この条件下では、s波型の中でも、異なる電子集団の間で超伝導ギャップ(注4)の符号が反転する「s±型」と反転しない「s++型」とよばれる状態があります(図1)。s±型は磁気的なゆらぎに基づく超伝導電子対の形成メカニズムと矛盾しないため、CeCu2Si2の超伝導発現機構に理論的な制約を与えるためには、このs波型のなかでの詳細な分類が重要となります。
 
研究成果の内容と意義
 異なる電子集団の間での超伝導ギャップの符号反転の有無を実験的に決定するために、本研究グループは超伝導体に導入した不純物が超伝導電子に与える影響に注目しました。符号反転がない場合には、不純物が超伝導電子対に与える影響はほとんど無いため、超伝導電子密度の温度依存性は不純物導入前後で変化しませんが、符号反転がある場合、不純物による散乱の効果で超伝導電子対が壊され、超伝導電子密度の温度依存性が劇的に変化します。本研究では、純良なCeCu2Si2単結晶に電子線を照射することによって試料の内部に磁性を持たない均一な格子欠陥(不純物)を導入したうえで、磁場侵入長(注5)の温度依存性を約30ミリケルビン(室温の1万分の1の温度)の極低温まで測定しました。さらに、同一の試料に対して繰り返し電子線照射を行うことで、試料依存性を排除した上で不純物の効果を系統的に調べました。
 実験の結果、照射量を増やしても、磁場侵入長の温度依存性そのものはほとんど変化しないこと、すなわち超伝導電子の壊れやすさは不純物にほとんど影響を受けないことが明らかになりました(図2)。超伝導ギャップに符号反転を有するd波型やs±型の超伝導体で、同様に不純物の影響を調べた先行研究と本研究とを比較するとその違いはより明瞭になります(図3)。ここでは、不純物が超伝導電子対を壊す「強さ」を表す量である不純物散乱パラメータに対して、磁場侵入長の変化を示してあります。符号反転を有するケースでは、比較的小さな散乱パラメータで温度の2乗に比例する依存性へと収束し、これは理論的に予測される結果と一致します。一方CeCu2Si2では、それらより十分大きな散乱パラメータでも温度依存性のべき指数は3を超えており、全く異なる電子状態であること、すなわち「s++型」であることを明瞭に示しています。
 従来の理論では、磁気的な相関が支配的な系では「s++型」の電子状態を取り得ないとされていましたが、最近提案された電子軌道の自由度を取り込んだモデルでは、この「s++型」の電子状態となりうることが示されています。今回の実験結果は、このような今まで考慮されていなかった新奇な超伝導機構が深く関与していることを強く示唆するものです。
 本研究は、その発見以来長年に渡り議論が続いていたCeCu2Si2の超伝導発現機構に決定的な証拠を与える発見です。また、磁気秩序相の近傍では磁気的なゆらぎを媒介とした超伝導が出現する、という定説に再考を促す結果であり、強相関電子系における超伝導発現機構を理解する上で重要な手掛かりとなることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Physical Review Letters(2017年8月14日の週にオンライン掲載予定)
論文タイトル:Full-Gap Superconductivity Robust against Disorder in Heavy-fermion CeCu2Si2
著者:T. Takenaka, Y. Mizukami, J. A. Wilcox, M. Konczykowski, S. Seiro, C. Geibel, Y. Tokiwa, Y. Kasahara, C. Putzke, Y. Matsuda, A. Carrington and T. Shibauchi

 

 

問い合わせ先

東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
大学院生 竹中 崇了(たけなか たかあき)
TEL/FAX: 04-7136-3775 Email: takenakaqpm.k.u-tokyo.ac.jp
HP: http://qpm.k.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
助教 水上 雄太(みずかみ ゆうた)
TEL/FAX: 04-7136-3775 Email: mizukamik.u-tokyo.ac.jp
HP: http://qpm.k.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
教授 芝内 孝禎(しばうち たかさだ)
TEL/FAX: 04-7136-3774 Email: shibauchik.u-tokyo.ac.jp
HP: http://qpm.k.u-tokyo.ac.jp

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用語解説

(注1)強相関電子系
通常の金属や半導体では電子がほぼ自由に振る舞うのに対し、クーロン相互作用等の電子同士に働く力が無視できないため、電子が自由電子の振る舞いでは記述できない複雑な性質を示す物質群のことを強相関電子系と呼ぶ。重い電子系化合物や銅酸化物高温超伝導体は、強相関電子系の代表的な例である。

 

(注2)BCS理論
1957年にBardeen、Cooper、Schriefferの3人によって提唱された超伝導の標準理論。この理論では、結晶格子の振動を媒介として実効的な引力が二つの電子間に働き、超伝導電子対が形成され、多数の超伝導電子対が凝縮状態になることで超伝導が実現すると説明されている。通常金属において発現する超伝導の多くはBCS理論で説明される。

 

(注3)重い電子系
 強い電子間相互作用の為、電子の有効的な質量が自由電子の質量に比べて数百倍~千倍も「重く」なった金属状態を示す物質群のこと。レアアース(希土類)やアクチノイドを含んだ化合物にしばしば見られる。

 

(注4)超伝導ギャップ
 超伝導電子対の結合の強さを表す量のこと。超伝導状態を記述する重要な物理量の一つであり、BCS理論では超伝導電子の動く方向によらず超伝導ギャップの大きさは一定の値となる。一方、磁気的なゆらぎを媒介として対を形成する場合では、超伝導電子の動く方向によってその値や符号が変化し、d波のような場合では、特定の向きに動く超伝導電子の超伝導ギャップの大きさが絶対零度でもゼロになることがある。

 

(注5)磁場侵入長
 超伝導体が示す完全反磁性の状態では、超伝導体の内部では完全に磁場が排除されているものの、超伝導体表面から数十~数千ナノメートルのごく限られた領域では、磁場がわずかに侵入している。この磁場が入り込める長さが磁場侵入長と呼ばれる。磁場侵入長の二乗の逆数は超伝導電子の数に比例しており、この温度依存性は超伝導電子の電子状態によって大きく異なる。そのため、磁場侵入長の温度依存性を調べることで、超伝導電子の電子状態の対称性に関する情報が得られる。

 

添付資料

(図1)s波型の対称性のうち、複数の電子軌道が寄与する場合に考えられるs++型とs±型の電子状態を電子の運動量空間に表したもの。s++型では超伝導ギャップ関数は同じ符号のものしか存在しないが、s±型ではギャップ関数の符号が反転した領域が存在する。

 

(図2)それぞれの電子線照射量での磁場侵入長の温度依存性を図示したもの。比較のために、規格化した磁場侵入長の変化量を、超伝導転移温度Tcで規格化した温度T /Tcに対してプロットしている。転移温度がおよそ半分に抑制された試料でも、T /Tcに対する依存性が変化していない様子が明確に観測される。

 

(図3)磁場侵入長の変化をΔλ∝T^nとして表したときのべき指数nの値を縦軸に、不純物が超伝導電子対を「壊す」強さを表すパラメータを横軸としたときの関係を表した図。電子状態に符号反転を有する超伝導体では、超伝導電子が不純物によって壊されやすいためすぐにn~2へと収束する一方、CeCu2Si2はべき指数がほとんど変化せず、不純物に対して安定的であることが分かる。