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世界初 道路からインホイールモータへの走行中ワイヤレス給電に成功 ~新しい走行中給電のかたち~

 

会見日時

2017年 3月30日(木)14:00~16:00

会見場所

東京大学柏キャンパス(千葉県柏市柏の葉5-1-5)
柏図書館1階 メディアホール

出席者

藤本  博志(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻/大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授)
居村 岳広(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 特任講師)
佐藤  基(東洋電機製造株式会社 研究所半導体応用研究室 博士)
郡司 大輔(日本精工株式会社 自動車技術総合開発センター  ビークルダイナミクス技術開発部 博士)
畑  勝裕(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 博士課程2年)
竹内 琢磨(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻 修士課程2年)

発表のポイント

○道路からインホイールモータ(IWM、注1)に直接、走行中給電(注2)できる「第2世代ワイヤレスインホイールモータ」を開発し、世界で初めて実車での走行に成功しました。
○本技術は、電気自動車の大きな課題のひとつである“充電一回あたりの航続距離の限界”を解決するとともに、IWMに適した新しい走行中給電のかたちを実現するものです。

発表概要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループは、東洋電機製造株式会社、日本精工株式会社と共同で(以下,当研究グループと呼ぶ)、道路からIWMに直接、走行中給電できる「第2世代ワイヤレスインホイールモータ」(図12)を開発し、世界で初めて実車での走行に成功しました。これは2015年5月に発表した、車体からIWMへワイヤレス給電する技術をさらに発展させたものです。
 世界初のこの技術は、道路に設置したコイルから走行中の車のIWMへ磁界共振結合方式(注3)でワイヤレス給電するものです(図3)。従来の走行中給電技術の多くは、道路のコイルから車体へワイヤレス給電するものですが、本技術では道路からIWMに直接給電できるため効率が良くなります。これを実現するため、IWMにリチウムイオンキャパシタ(注4)を内蔵するとともに、高度なエネルギーマネジメント技術を開発しました(図5)。

図1 走行中給電を行う第2世代ワイヤレスIWM

図2 第2世代ワイヤレスIWMの構成図

図3 走行中給電コース

発表内容

■研究背景と開発の経緯
 クルマのホイール内部に駆動モータを配置するIWMタイプの電気自動車(EV: Electric Vehicle)は、その優れた運動性能により、安全性、環境性、快適性のあらゆる面でメリットを享受できます。しかし、従来のIWMではモータを駆動する電力を送るため車体とIWMをワイヤでつなぐ必要があり、このワイヤが断線するリスクがありました。そこで、2015年5月に当研究グループは、「ワイヤが断線する恐れがあるならば、そのワイヤをなくしてしまおう」のコンセプトで第1世代ワイヤレスIWMを開発し、世界で初めて実車走行に成功しました(http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry400/)。
 一方で、EVの普及が進んでいない一番の課題は、従来のガソリン車等に比べ充電1回あたりの航続距離が短いことです。航続距離を伸ばすため重いバッテリをクルマにたくさん積むと、クルマを動かすのに必要なエネルギーが増えてしまいます。そこで、バッテリの搭載量は必要最小限にして、走行中に足りない分のエネルギーを道路に設けたコイルからワイヤレスで送って補えば良い、という「走行中給電」の実現に向けて、世界的に多くの研究が行われています。これまで検討されてきた走行中給電の多くは、道路に設けたコイルから車体の底に装着した受電コイルに電力を送り、車載バッテリへ給電をするものでした。
 さらに、これまでの研究例では、現在市販されているEVと同様の車載モータを使ったEVを想定しており、ディファレンシャルギアなどの駆動装置を介するため機械的な伝達ロスが大きく、重量も重くなってしまいます。これに比べ、IWMは発生したトルクを直接駆動力としてタイヤに伝達できるので、伝達ロスを極限まで減らせます。また、先行研究において、駆動装置の重量を30~40%軽くできることが示されています。
 そこで本研究では、IWMに適した走行中給電の新しいかたちを提案しました。つまり、道路のコイルから車体のコイルへの給電ではなく、道路のコイルからIWMに直接、走行中ワイヤレス給電をします。これにより安全性、環境性、快適性に優れる未来のEVの理想形を実現します。

 

■3つの技術的なキーポイント
1.  道路から走行中のクルマのIWMへの直接ワイヤレス給電

 道路からの走行中給電では道路のコイルとクルマの受電コイルの相対位置が走行状況によって変化するため、送受電コイルの位置ずれに強い磁界共振結合による方式を採用しました。
 これまで検討されてきた車体の受電コイルへの走行中給電では、路面の凹凸や乗車人数等よって受電コイルの位置が上下するため(図4 (a))、受電コイルを道路に擦らないようにエアギャップ(コイルの間の距離)を広くする必要があり、効率の低下を招いてしまいます。一方、本研究で提案する構造ではIWMに受電コイルを装着するので、車体(サスペンションよりも上の部分)に上下運動が生じたとしても、道路と受電コイルとの距離は一定に保たれるので(図4 (b))、エアギャップの余裕を大きくする必要がありません。
 なお、走行中給電設備がない場合は、車載バッテリからワイヤレスでIWMにエネルギーを送ってIWMを駆動します。これは2015年に発表した第1世代ワイヤレスIWMで実現されている技術であり、今回開発した第2世代でも同じ機能を持っております。

(a) 従来研究の走行中給電(コイル間距離が変わる)

 (b) 本研究で提案する走行中給電(コイル間距離が変わらない)
図4 走行中給電用受電コイルの位置変化

 

2.  IWMに蓄電デバイスを内蔵したことによる高効率動作
 従来のガソリン車等と違いEVは減速時のエネルギーを回収できます(回生ブレーキ)。さらに走行中給電が加わると、IWMではエネルギーの出し入れが頻繁に行われます。そこで、IWMに蓄電デバイスを内蔵することで安定的な動作と高効率化を可能としました。エネルギーの出し入れが頻繁に行われる用途では、蓄電デバイスとしてバッテリは適していないことが一般に知られています。そこで本研究では大電力を扱うことができ、充放電回数が多くても劣化しにくいリチウムイオンキャパシタを採用しました。
 2015年に発表した第1世代ワイヤレスIWMでは、EVの減速時の回生エネルギーをIWMから車載バッテリにワイヤレスで送って充電しており、回生でのエネルギーロスが生じていました。今回開発した第2世代ではIWMに内蔵した蓄電デバイスに回生エネルギーを貯められるのでエネルギーのロスを低減でき、車載バッテリの容量を更に減らすことが出来ます。このようにIWMに出入りするエネルギーの流れをコントロールし、内蔵した蓄電デバイスを適切に使用するための高度なエネルギーマネジメント技術を開発しました(図5)。

 

3.  1輪あたりのモータ出力を3kWから12kWへ大幅に大出力化

 2015年に発表した第1世代ワイヤレスIWMでは1輪あたりの出力は最大3.3kWと市販のEVに比べて限られた性能でした。そこで今回開発した第2世代では市販EVと同等の走行性能を得ることを目標に、1輪あたりの出力を12kWに大幅に大出力化しました。現在は実験車両の前輪2輪のみ装着していますが、4輪すべてに装着すると48kWとなり、実験車両のベースである市販EVと同等の走行性能が得られます。
 大出力化にあたり、ワイヤレス給電を構成する変換器全てにSiC(注5)を採用しました(図6)。また、モータの回転軸とホイールの回転軸をずらした新しい構造のオフセット軸減速機を内蔵したハブ軸受ユニット(注6)を採用することで小型化を実現し、操舵機構があり寸法的な制約の厳しい前輪への搭載が可能となりました。
 個々のモータは大出力化した一方で、IWMへの走行中給電では個々のモータがそれぞれ電力を受け取れるので、車載バッテリに走行中給電する方法に比べ、1つの道路側コイルから送る電力は小さくすることができます(4輪に装備した場合はそれぞれ1/4の電力でよい)。これにより道路側設備の簡易化にもつながります。

図5 高効率動作を可能としたエネルギーマネジメント技術

(a) 第1世代ワイヤレスIWM             (b) 第2世代ワイヤレスIWM

図 6 第1世代と第2世代の変換回路構成

 

■今後の展望
 走行中給電はEVの課題である航続距離の短さを解決できます。例えば、高速道路において走行中給電で得たエネルギーのみで走行したり、車載バッテリを充電しながら走行できます(図7(a))。また、市街地の信号のある交差点付近で給電してIWMにエネルギーを蓄え、発進時の加速エネルギーとして使う、といった方法が考えられます(図7(b))。さらに、路線バスや空港・工場といった決まったルートに走行中給電設備を設置して、このルートを走行する車両のバッテリ搭載量を大幅に減らすことも可能です。
 2015年に発表した第1世代ワイヤレスIWMではIWMのワイヤの断線リスクという弱点を克服しました。今回開発した第2世代ワイヤレスIWMでは、それに加えて走行中給電の新しいかたちを提案し実現しました。これらの技術がIWMの普及・実用化の大きな後押しとなり、究極のEVとしてクルマ社会の安全・安心や、地球環境の保全に貢献することを期待しています。

(a) 高速道路              (b)市街地

図7  走行中給電のある未来の道路のイメージ図

 

謝辞
 走行中給電の設備の一部は、JST-CREST プロジェクト「エネルギー消費行動の観測と分散蓄電池群の協調的利用に基づく車・家庭・地域調和型エネルギー管理システム」の支援を受けたことを付記する。

発表学会

・テクノフロンティア モータ技術シンポジウム(2017年4月19日予定)
「走行中給電に対応したワイヤレス インホールモータ2号機の開発」
藤本 博志

・自動車技術会春季大会(2017年5月24日予定)
「走行中ワイヤレス電力伝送に対応したワイヤレスインホイールモータ2号機の開発」
藤本 博志、竹内 琢磨、畑 勝裕、居村 岳広、佐藤 基、郡司 大輔

問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ先】
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻
 特任講師 居村 岳広(いむら たけひろ)
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻
 博士課程 畑 勝裕(はた かつひろ)
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻
 准教授 藤本 博志(ふじもと ひろし)
TEL: 04-7136-3873
E-mail:imura@hori.k.u-tokyo.ac.jp , hata@hflab.k.u-tokyo.ac.jp
fujimoto@k.u-tokyo.ac.jp


東洋電機製造株式会社 経営企画部
広報・IR・CSR課 丸山 達也
TEL:03-5202-8122 FAX:03-5202-8147 E-mail:contact@toyodenki.co.jp

日本精工株式会社 CSR本部 広報部
副主務 田上 武俊
TEL:03-3779-7053 FAX:03-3779-7431 E-mail:support@nsk.com

用語解説

(注1)インホイールモータ(IWM:In-Wheel Motor)
ホイール内部に駆動源(モータ)を配置する技術。研究・開発事例が多数報告されていますが、現在までに市販車両に採用された例はありません(小型モビリティを除く)。

(注2)走行中給電(D-WPT:Dynamic Wireless Power Transfer)
走行中ワイヤレス電力伝送とも呼ばれ、道路に設置した給電装置から走行中の車にワイヤレスで電力を送る技術です。第1世代ワイヤレスIWMにおいて実現した車載バッテリの電力を車体側からIWMにワイヤレス給電する技術とは異なります。

(注3)磁界共振結合方式
ワイヤレス電力伝送の一方法で、一次側(送電側)と二次側(受電側)に共振コンデンサを設けて共振状態とすることで、従来の電磁誘導方式に比べて高効率・長距離の電力伝送が可能です。

(注4)リチウムイオンキャパシタ(LiC:Lithium-ion capacitor)
蓄電デバイスの一種で、バッテリよりもエネルギー密度は低い反面、瞬時的に大きな出力を出すことが得意で繰り返しの充放電にも強いという特徴があります。LiCはスーパーキャパシタの負極材料にリチウムイオンバッテリーと同様の材料を使用することで、従来のスーパーキャパシタよりもエネルギー密度を高めたものです。

(注5)SiC
SiC(炭化ケイ素)を用いた半導体スイッチング素子のことで、高耐圧・低損失の次世代パワーデバイス材料として期待されています。

(注6)ハブ軸受ユニット
ホイール(タイヤ)の回転と車の重さを支える、すべての車に欠かせない部品です。