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非対称な発光現象の発見 ~磁石の向きの画像化に応用~

◆メタホウ酸銅(注1)という物質からの発光を表側から観測した場合と裏側から観測した場合で、ある波長の発光強度が70%も異なる現象を発見した。
◆この「表」と「裏」は、メタホウ酸銅がもつ磁石の向きで決まっている。
◆メタホウ酸銅からの発光を撮影することで、磁石の向きを画像化することができた。
◆今回発見された非対称な発光現象は大変低い温度で実現されたが、今後、常温で実現すれば、磁場で発光波長の変わる発光素子や、発光で読みだす光磁気記録素子への応用が期待される。

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の豊田新悟大学院生らは、メタホウ酸銅という青色の結晶に赤い光を当てたときの近赤外領域の発光について研究を進め、ある方向から観測した発光スペクトル(注2)と逆側から観測した発光スペクトルに大きな違いがあることを発見しました。
 通常、物質の物質からの発光では、ある方向から観測した発光スペクトルと逆側から観測した発光スペクトルは、一致することが知られています。ところが、特殊な条件を満たす磁性体からの発光では、逆方向から観測した発光スペクトルに差が生じることが理論的に予測されていました。さらに、いくつかの磁性体では実際に違いが確認されていましたが、その違いの大きさは1%にも達していませんでした。本研究グループは、メタホウ酸銅という物質を摂氏マイナス252度以下に冷やすと、上記の条件を満たす特殊な磁石となることに注目して研究を進めてきました。その結果、この物質が示すN極とS極の向きをそろえた上で、発光を表から観測した場合と裏から観測した場合とを比較した結果、0.886ミクロンという近赤外域での発光強度が70%も異なることを発見しました。
 また、外部から500ガウスの磁場を作用させると、この物質のN極とS極が逆転します。この磁極の逆転に伴って、表側から観測されていた発光スペクトルと裏側から観測されていた発光スペクトルが入れ替わることが確認されました。すなわち、「表」と「裏」はこの物質が持つ磁石の向きで決まっていることを意味します。この現象を利用して、メタホウ酸銅の結晶からの発光をCCDカメラで撮影することで、結晶の部分ごとの磁石の向きを画像化することにも成功しました。
 今回発見した非対称な発光現象は、メタホウ酸銅が磁石になる低温でしか観測することができません。摂氏マイナス252度より高い温度では、どちらから観測しても同じ発光スペクトルになってしまいます。しかし、今後の研究の進展によって、上記の条件を常温で満たす物質を開拓できれば、発光の色を弱い磁場で切り替えることのできる発光素子や、発光で読みだすことのできる光磁気記録素子(注3)などが期待されます。

発表雑誌:
雑誌名:Physical ReviewB誌 平成28年5月20日掲載
論文タイトル:Gigantic directional asymmetry of luminescence in multiferroic CuB2O4
著者:S. Toyoda*, N. Abe, T. Arima

 

 

(注1)メタホウ酸銅:CuB2O4という組成式で表される銅、ホウ素、酸素からなる化合物で、摂氏マイナス252度以下では弱い磁石になる。
(注2)発光スペクトル: ある物質から発生する光について、波長ごとの発光の強さを表したもの。
(注3)発光で読みだすことのできる光磁気記録素子:以前使われていた光磁気記録では、光を記録部位に照射して、戻ってくる光の電場の振動方向によって磁石の方向を読みだしていた。その記録密度は、照射する光をどれだけ小さく集光できるかで制限される。一方、発光を読み出しに利用すると、強い電場や電子線などの刺激が使えるため、記録する磁石を非常に小さくすることが可能になる。