ニュース

肉類ペプチドに脳萎縮抑制効果・神経心理機能強化の可能性

発表者

久恒辰博(大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 准教授)

発表のポイント

◆健康な人において鶏肉に含まれる高機能食品成分イミダゾールジペプチド(注1)には記憶に関連する脳部位の萎縮を抑制する効果が見られた。
◆同様に健康な人においてイミダゾールジペプチドには、神経心理機能に改善傾向をもたらす効果があることがわかった。
◆食肉や魚肉の適量な摂取は、脳や心の健康維持につながる可能性が期待される。

発表概要

 食べ物には、生体のエネルギー源としてだけではなく、生体の恒常性(注2)を保ち、心身の健康を維持するはたらきがある。中でも肉類には、単なる蛋白質の供給源であることを超えて、例えば『肉を食べていると元気になる』と言った、未だ知られざるはたらきがあることも、近年論じられてきており、これらの効果をもたらす食品中の成分を高機能食品成分と呼ぶ。例えば、鶏肉には高機能食品成分としてイミダゾールジペプチドと呼ばれる複数のアミノ酸からなる分子(ペプチド)が多く含まれており、イミダゾールジペプチドにはこれまでに抗疲労効果があることなどが報告されてきた。しかし、イミダゾールジペプチドには未知の効果がある可能性が残っていた。
 今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授らの研究グループは、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センターと共同で、鶏肉に含まれるイミダゾールジペプチド含有食品を3ヶ月間摂取するボランティア群とそうでないボランティア群の食品摂取期間の前と後に、MRI検査と神経心理機能検査を実施したところ、前者の群ではイミダゾールジペプチド含有食品を摂取後に記憶に関連する脳部位の萎縮が抑制されていることおよび、うつ傾向と認知機能に改善傾向が認められた。これは、肉類に含まれるイミダゾールジペプチドに記憶に関連するヒトの脳部位の萎縮を抑制するとともに、神経心理機能を改善するはたらきがあることが示唆する結果である。
 本研究により、食肉や魚肉が持つ健康維持作用を新たに明らかにすることができた。また、食肉の適量摂取は、脳や心の健康維持につながる可能性が期待される。
 なお、本研究は農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業の支援を受けて行われた。

発表内容

 食べ物には、生体のエネルギー源としてだけではなく、生体の恒常性(注2)を保ち、心身の健康を維持するはたらきがある。中でも肉類には、単なる蛋白質の供給源であることを超えて、例えば『肉を食べていると元気になる』と言った、未だ知られざるはたらきがあることも、近年論じられてきており、これらの効果をもたらす食品中の成分を高機能食品成分と呼ぶ。例えば、鶏肉には高機能食品成分としてイミダゾールジペプチドと呼ばれる複数のアミノ酸からなる分子(ペプチド)が多く含まれており、イミダゾールジペプチドにはこれまでに抗疲労効果があることが報告されてきた。しかし、イミダゾールジペプチドには未知の効果がある可能性が残っていた。
 東京大学大学院新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授らの研究グループは、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センターと共同で、40―70歳台の健康なボランティア28名を、2つのグループに無作為に分け、鶏肉に含まれるイミダゾールジペプチドの未知の効果を探った。一つのグループは、イミダゾールジペプチド含有食品を一日当たり朝晩二袋、3ヶ月間継続摂取(試験食群)し、もう一つのグループはイミダゾールジペプチドを含まない食品を一日当たり朝晩二袋、3ヶ月間継続摂取(プラセボ食群)した。
 これら2グループの食品摂取期間の前と後に、MRI検査と神経心理機能検査を実施した。MRI検査では、MRI画像から脳体積を正確に計測したところ、プラセボ食群と比較して試験食群では、記憶に関連する脳部位の萎縮が抑制されていることがわかった。神経心理機能の評価は、うつ傾向の評価に用いられる検査ならびに認知機能の評価に用いられる検査を用いて測定したところ、試験食群ではこれらの検査で評価される神経心理機能に改善傾向が認められた。
 以上の中高齢者ボランティアの参加による研究から、肉類に含まれる高機能食品成分イミダゾールジペプチドに、中高齢者の脳萎縮を抑制し、神経心理機能を改善する作用がある可能性が見出された。同じような効果は、マウスを用いた研究においても認められている。毎日の食事の中で、食肉や魚肉を適量摂取することは、体にとって必要なイミダゾールジペプチドを適切に補うことにつながり、結果として脳や心の健康維持に貢献する可能性が期待される。
 本研究の内容は、3月27~30日開催の日本農芸化学会(東京、明治大学生田キャンパス)においても発表される予定である。なお、本研究は農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業の支援を受けて行われた。また、MRI検査は本研究グループの一員である独立行政法人 国立精神・神経医療研究センターが担当した。

発表学会

日本農芸化学会(東京、2014年3月30日、シンポジウムにおいて発表)
シンポジウムの題名: 食肉由来成分の健康寿命延伸効果と機能性発現の分子メカニズム
シンポジウムの時間: 13:30~16:30

問い合わせ先

久恒辰博(ヒサツネ タツヒロ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
先端生命科学専攻 細胞応答化学分野 准教授
電話:04-7136-3632、FAX:04-7136-3633
E-mail: hisatsune@k.u-tokyo.ac.jp
研究室ホームページ: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/hisatsune-lab/

用語解説

注1: イミダゾールジペプチド
βアラニンとヒスチジン(イミダゾール環を持つアミノ酸)などからなる生体ジペプチド。鶏
肉など、食肉中に多く含まれている。下に記載のカルノシンに加え、アンセリン(βアラニンとメチルヒスチジンからなる)、などがある。

カルノシン(βアラニル-ヒスチジン)の化学構造式
注2: 恒常性
外界の変化に対応して生物が一定の状態、構造などを保とうとする性質。一定の状態が保たれている人間の体温や血管において見られる。

参考資料

農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の本委託事業についてのホームページ
http://www.s.affrc.go.jp/docs/gaiyou/index.htm
シーズ創出ステージAタイプ
研究番号:25012A
研究題目: 「鶏肉に含まれる高機能ジペプチドを用いた中高齢者の心身健康維持に関する研究」